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『Message in a bottle』

2011年の東日本大震災時に、Twitter上で偶然アッコちゃんと知り合った。危機の際にはその人の本質があらわになりやすい。タイムラインは大混乱だったが、僕は他者を見つめるアッコちゃんの深い眼差しを信頼するようになり、幾つかのステージやレコーディングを共にした。

あれからそれなりに長い年月が過ぎた。心血を注いだバンドが解散し、パンデミックを契機として生まれ故郷である徳島に拠点を移した後、アッコちゃんがどんな音楽を鳴らすのか、いつも気になっていたけれど、それはこんなに美しい、歌のアルバムとして結実した。

ほとんど空っぽになった冷蔵庫というメタファーを軸にして現在地点の揺らぎを描き出す「ジャムと納豆」、新しい命、お子さんの誕生を通してあらゆる存在を寿ぐ「Heart Beats」などの素晴らしい楽曲群のなかで、今日は「Marble」のたゆたうような音像と歌詞が胸に突き刺さってくる。

「Marble どこから来て どこへ行くの 何に追われ 何を掴むの 闇と闇のはざまで ぼくたちは漂流ごっこ」

偶然と言っていいのかわからないが、僕も漂流や航海をモチーフにしたアルバムを作り上げたところで、運良くアッコちゃんのお店に漂着し、ワンマンライブさせてもらったのだった。

オープン7年目を迎えた徳島OLUYO、とても彼女らしいスペースだった。居心地の良い洒脱な空間なのだけど、よく見るとそこかしこに保護犬をサポートするためのアイテムだったり、県内の障害者施設から贈られた鉢植えなどが飾ってあって、アッコちゃんがこの数年間、地元でどんな風に生きて来たのかが自然と滲み出ていた。
公演に力を貸してくださった方々や、近所の郷土料理屋の大将も、みんなアッコちゃんのことが好きで仕方ない様子だった。それぞれの緊密な関係性の中に生じたメロディが織りなすアンサンブルに束の間加えてもらって、僕は貴重な時間を過ごした。

小さな街は、本当に小さいのだろうか?
アッコちゃんのお子さんが1歳を迎える頃に初めて発音したという言葉「AMIYAMUMA(あみやむま)」をタイトルに冠した1stソロアルバムには、小さな街にうずまく無限が詰まっていた。
この街に暮らす人々の生き様が交錯する場所で、真っ正直に綴られた航海の記録として、僕はこのアルバムを受けとめた。波間を漂う瓶詰めの手紙みたいに。
この手紙がきっとまた、たくさんの誰かを勇気づけるでしょう。

もしかしたらアッコちゃんは、地元に確実に根を張れたわけではなく、漂流の途上にある感覚を抱いているのかもしれない。ノアの方舟と違って、OLUYOは命を選別しない。僕と犬たちはキャプテン・アッコの船の中で気ままに笑っていた。地元のみんなも笑っていた。子供のように。まるで「生まれて初めて」みたいな顔をして。
彼女が流れ着く場所にはいつも、笑顔が生まれるみたいだ。
七尾旅人 (シンガーソングライター)
リリース情報
accobin 1st Album 『AMIYAMUMA』 artwork
発売日 : 2023.05.21
ACBN-2305 ¥2,500(税込)
販売 : OLUYO店頭&オンラインショップ ※カセット&ダウンロード
LIVE情報

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